ニュースでよく耳にする『GDP(国内総生産)』という言葉。
「GDPがプラス成長した」「世界ランクが下がった」といった報道を見るたび、私たちはなんとなく一喜一憂してしまいます。
でも、ふと疑問がよぎりませんか?
「GDPが上がることって、本当に“私たちの暮らしの豊かさ”と結びついているのだろうか?」と。
経済は成長していると言われているのに、なぜか忙しさは変わらない。また、給料はそこまで増えないのに、物価ばかりが上がっていく……。
実は今、世界中で「GDPだけで豊かさを測るのは、もう限界なんじゃないか?」という議論が巻き起こっています。
今回は、この「モヤモヤ」の正体であるGDPの仕組みと、世界が模索し始めた『新しい幸せのモノサシ』についてお話しします。
1)そもそも、GDPは何を測っているのか?
まずは、GDPの正体を少しだけ解き明かしておきましょう。
GDPとは、国内で一定期間に生み出された『付加価値の合計額』のことです。
式にするとこうなります👇
民間消費 + 民間投資 + 政府支出 +(輸出 - 輸入)
ただ、これだけだとわかりにくいので、「トマト → ソース加工 → 販売」という流れで付加価値を見てみましょう。
※例としてわかりやすいよう100円単位で記載しています。
【トマトが食卓に届くまで】
① 農家
苗や肥料に200円使い、育てたトマトを300円で売る。
→ 付加価値:300円−200円=100円
② 加工会社
300円で仕入れたトマトをソースにして、400円で売る。
→ 付加価値:400円−300円=100円
③ スーパー
400円で仕入れたソースを、消費者に500円で売る。
→ 付加価値:500円−400円=100円
この過程で生まれた付加価値は、
100円+100円+100円 = 300円
この「300円」の積み重ねがGDPです。
つまり、世の中でお金が動いて、誰かが利益を出せば出すほどGDPは増えていきます。
なぜ「モヤモヤ」するのか?
問題は、GDPが『市場で値段がつくもの』しかカウントしない点にあります。
例えば、
・どんなに愛情を込めて家事や育児をしても、GDPは0円。
・ボランティアで人を助けても、GDPは増えない。
・交通事故が増えて車の修理代が動いたり、環境破壊が進んで浄化コストがかかったりしても、GDPは「プラス」になる。
「不幸な出来事でも、お金が動けば経済成長」とみなされてしまう。
ここに、私たちが肌感覚で感じる「豊かさ」とのズレがあるのです。
2)世界が注目する “Beyond GDP(GDPのその先)”
「お金の計算だけじゃ、幸せは測れないのでは?」
そんな気づきから、世界では今、“Beyond GDP(GDPの向こう側)”を目指す動きが加速しています。
GDPという「経済のモノサシ」とは別の、新しい「幸せのモノサシ」をいくつかご紹介します。
① 「心の満足」を測る:GNH(国民総幸福)
ブータンが提唱したことで有名になった指標です。
「お金持ちかどうか」よりも「幸せかどうか」を重視し、生活実感に近い9つの分野で豊かさを測ります。
・心の豊かさ…心の充足感やウェルビーイング
・健康…心身の健康状態
・時間の使い方…労働と余暇のバランス
・教育…知識やスキルの習得
・文化の多様性…伝統文化の維持・発展とそれに適応する力
・コミュニティの活力…地域社会における人々のつながりや信頼
・良い統治…公正で効率的な政治・行政
・生態系… 生態系の健全性と持続可能性
・生活水準…経済的な豊かさや生活の質の向上
② 「本当の進歩」を計算する:GPI(真の進歩指標)
これは非常にユニークな指標です。
GDPはお金が動けば何でもプラスにしますが、GPIは「悪い出費」をマイナスにします。
・プラス評価(+) …家事、育児、ボランティア
・マイナス評価(−)…犯罪の増加、環境破壊、交通渋滞
「経済は成長したけれど、環境はボロボロで治安も悪化した」という場合、GDPは上がってもGPIは下がります。これこそが、私たちが求めている「実感」に近い計算式かもしれません。
③ 「人間らしさ」を見る:HDI(人間開発指数)
国連が重視している指標で、次の3つの要素で人間の「生きる力」を評価します。
・寿命(健康)…出生時の平均余命
・知識(教育)…成人識字率と総就学率
・経済(所得)…一人当たりの国民総所得
いくら国にお金があっても、国民が教育を受けられなかったり、早死にしてしまったりする社会は「発展している」とは言えない、という考え方です。
3)これからは『複数のモノサシ』を持つ時代へ
もちろん、GDPが全く役に立たないわけではありません。
しかし、私たちはもう気づき始めています。
「体重計」で「血圧」は測れないように、「GDP」だけで「幸せ」は測れないのだと。
・経済の強さは GDP(国内総生産)で見る。
・社会の優しさは GPI(真の進歩指標)で見る。
・心のゆとりは GNH(国民総幸福) で見る。
このように、複数のレンズを通して社会を見ることが、これからのスタンダードになっていくでしょう。
GDPで測れるもの | GDPで測れないもの
✅ モノの生産量 | ❌ 心の幸福・満足度
✅ 売買される価値 | ❌ 家事・育児・介護
✅ お金が動く活動 | ❌ 自然環境
4)あなたにとっての「豊かさ」とは?
GDPという巨大な数字の話をしてきましたが、最後は個人の話に戻しましょう。
国がどういう指標を採用するかに関わらず、私たち一人ひとりも、自分の「豊かさの指標」を持つことが大切なのかもしれません。
年収や貯金額を上げることも大切です。
でも、家族と過ごす時間、趣味に没頭する時間、心身の健康……。
数字には表れないけれど、『あなたにとって譲れない豊かさ』は何でしょうか?
ニュースで「GDP」という言葉を聞いたら、ぜひ思い出してみてください。
「その数字の向こう側に、私たちの笑顔はあるのかな?」と。